左官の土塗り壁

土(砂混じり粘土)は、かつて最も入手しやすい材料として、建築に利用されてきました。
ですから、左官は建築関係の技術の中で、最も古いものの一つです。
また、現場に合わせて成型が自由にできたり、広く継目なしに仕上げることができるという優れた特徴があり、さらに、耐火・耐水・断熱・遮音・吸音という性能を一通り兼ね備えているため、世界各地で数千年来利用されてきました。

まずは竹木舞(木舞下地)

土壁の芯になる竹小舞です。
この地方では、竹木舞も左官屋の仕事です。

最初に、柱に通された貫の間に親竹(間渡し竹)を取り付けます。
この親竹に割竹を1本ずつ麻縄でしばり、格子状に編みます。

手間のかかる仕事で、様々な流儀があります。
地域によって、職人によって、使う材料も編み方も千差万別で、それぞれに理由があり、ウンチクを聞くと面白いです。
左官屋の経験と知恵が結集されています。

この竹小舞はとても綺麗ですが、すぐに土壁(荒壁)が塗られてしまうので、壁の中に隠れてしまいます。
一瞬の美です。

そして荒壁

きれいに編んだ竹小舞に、藁スサ(細かく刻んだ藁)を混ぜた土を塗ります。
土は阿吽の呼吸で鏝板に刺されます。

最初は屋外側から屋内側へ、土が「にゅるっ」とはみ出すように・・・。
屋内側から見るとこんな感じ。

屋外側や間仕切りの片面が終わったら、裏返し塗り。
「にゅるっ」とはみ出すことで両側の土が一体となり、そして数週間をかけて乾き、ひび割れが出ると、竹小舞を芯にした荒壁ができます。

この塗り方も、職人によって様々です。
最初に屋外側を塗る人、そうではなく屋内側を塗る人、両側を続けて塗る人、片側だけ塗って乾かしてからもう一方を塗る人。
それぞれに、もっともな理由があります。

使う土もいろいろ

藁スサを混ぜた荒壁の土を、「泥コン」と呼びます。
岐阜県は良質な土の産地で、いい「泥コン屋」さんがあります。
この土は、「泥コン屋」さんの調合済みのものです。
土の質によって、藁スサの大きさ、量、混ぜるタイミング、様々あります。
黄土色っぽくてヨーグルトのような匂いがするものが多いですが、 原料土や、藁スサの発酵の具合で、色も匂いも変わります。
季節によって、現場によって、いろんな土を見ることができます。

最後に上塗り

荒壁が完全に乾いたら、貫伏せ、ちり廻り、そして斑直しを行います。
その後、上塗り(仕上げ)の直接の素地となる中塗りを施します。
一般に上塗りの厚さは薄いので、中塗り面に鏝斑や不陸があればたちまち上塗り面に表れるので、中塗りは丁寧に施工します。
中塗りを仕上げとする場合もあります。

中塗りの後は切返し塗りを行い、いよいよ上塗りです。
上塗りの種類は、土物砂壁(珪藻土等)、砂壁、大津壁、漆喰等があり、仕上げ方法も無数に広がります。

最近は、荒壁を付けず、石膏ボード類にプラスターを塗った下地に上塗りを施した乾式の工法も土壁と呼ぶことがあります。

土壁で囲まれた空間は、とても心地よいものです。
温度なのか、湿度なのか、音響なのか、なかなか数値では表せないのですが、 断熱材やコンクリートなど、工業製品ではつくれない心地よさです。

なんとか土壁が見直されるように、今ががんばりどころです。